別役実の「空中ブランコ乗りのキキ」の続きを書く企画に参加
リンクにあるイーゲルさんの所で知りました。
イーゲルヒュッテ 続空中ブランコ乗りのキキP&M Blog空中ブランコ乗りのキキここが企画元piaaさんのページ↑ ここから別役の原作にも飛べます。まずは原作を読んでください。
ドッペルさんのを読んで、なるほど! と思いました。
私ので絶望に陥ったあとは、こちらを読んで復活してください。↓
春のドッペル・ゲンガー:空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)↓リリー版は、こちら。BLくさいけど、BLでも18禁でもありませんので、ご安心を。
空中ブランコ乗りのキキ(別役実)の続編
「空中ブランコ乗りのギギ」
byリリーブルー
ところで、キキには隠し子がいた。サーカスの人気少年が子持ちなのは差し支えがあるので、隠されていたが。
キキの息子、ギギは、成長して、空中ブランコ乗りになった。
ギギに課されたものは、キキの時より更に重かった。ギギは空中二回転が出来た時、既に追い詰められた気持ちになっていた。
「一回転や二回転はできて当たり前だ」
少年ギギは、サーカス仲間にしばしば言っていた。
「あんたの祖父さんの時代には、二回転で大したものだったんだよ、三回転に失敗して死んだのだからね」
年上の仲間はそれに答える。果たして彼らが、ギギの祖父を知っていたかどうかは、わからない。ただギギは知っていたのだと思い、そのことばを信じていた。その言葉を聞くたびに、ギギは自分に言い聞かせた。
(でも、僕の時代には、僕は、そんなの当たり前にできなきゃいけないんだ)
そのあとに続くセリフはこうだ。
「そして、あんたの親父ときたら、四回転だからねぇ!」
実際、ギギが三回転に成功したとき、キキができるようになった年齢よりは早かったのだ。でも、それは大して評価されなかった、とギギは感じた。
「やっぱり、キキの息子だなぁ!」
ギギにとって、その言葉は賞賛ではなく、出来ても当然、というやっかみに聞こえた。サーカスの世界は厳しかった。
キキの四回転は、不可思議な伝説だった。四回転を成功させた後、忽然と姿を消したキキ。
残された遺児ギギの目差す所は、四回転でなければならなかった。いや、四回転は、もう達成されているのだから、さらにもっと。ギギはそう考えていた。
三回転で連日喝采を浴びながらも、ギギはその喝采を真から喝采と受け止めたことは一度たりともなかった。喝采はあって当然、無ければ死だ。僕には空中ブランコしかないのだから。ギギは思いつめていた。
人はいつか飽きるだろう。いつか離れていく。
その追い詰められ方によって、ギギはまさしくキキの息子であった。負の。
キキにはまだ夢があった。飛ぶことの喜びがあった。でもギギには、飛ぶことは定められた道であり、選択の余地がないものだった。
ある日、ギギは転落した。ブランコからではない。橋の欄干からだ。
目を覚ました病院のベッドの脇で、団長は聞いた。
「あれは、事故だったんだな?」
「……そうです」
団長は醜聞をもみ消すことに長けていた。団員が自殺を謀ったなどと知れたら、興行に差し支えると判断して、新聞の取材は全て断った。
サーカスに空中ブランコ乗りのいない日々が続いた。
「もう、ほかの空中ブランコ乗りを雇えばいいのに」
自宅療養をしながら、見舞いにきた団員に、ギギは投げやりに言った。
「何言ってるんだ、お前じゃなきゃだめだから、団長だって他を雇わないんじゃないか。長くいっしょにやってきた仲間だろう?」
ギギは上の空で聞いていた。
「ところで、お前を助けた人を知ってるか?」
「助けた人?」
「川に流されたお前を救った人だよ」
「知らない」
「この間、楽屋に来てたぜ。お前が、まだ復帰しないのかって、心配してた」
「ふうん」
ギギは、面倒だな、と思った。それで催促が来るようにならないといいけど、と思った。
「俺は、お前、空中ぶらんこでなくてもいいと思うんだ。みんなはやらせたがるけど、でもお前は、実際どうなんだ?」
「どうって」
「空中ブランコ、やりたいのか?」
「さあ」
ギギは仲間の言葉がうるさかった。今頃そんなことを聞いたって遅い。何もかも遅い。どうしてみんな気づくのが遅いんだ。遅すぎる。ギギはいらいらした。
ギギはパン屋の売り子になった。パン屋にしたのは別に意味はない。団長には暇をもらった。団長や団員は、ギギがサーカスをやめたとは思っていないようだった。ギギもまた、どこかしらでそう思ってはいた。ただ、今は復帰が無理なので、しかしサーカスもそう長い間、ギギを養うこともできなかったので、それを許しただけだった。
パン屋にしたのは、ただ近所に募集の紙が貼ってあったからだ。それに、残ったパンをもらえるかな、と思ったし。あまり煌びやかなところにいたい気分になれなかったから。そのパン屋は、適当に暇で、適当にポリシーがあった。
ある日、客に声をかけられた。
「あなた、空中ブランコ乗りのギギでしょう?」
ギギは、パンを袋に入れていた手を止めて、無言で応えた。
「ああ、やっぱりそうですね?」
客が帰ってから、パン屋の同僚は尋ねた。
「あんた、サーカスで働いてたの? へえ、すごいね」
ギギは、やっぱり答えなかった。
ある日、仕事を終えて外に出ると、角から、こないだの客が姿を現した。小さな花束を持って。今日はギギの誕生日だった。
「ギギさん、おめでとう」
ギギは、気持ち悪い奴だな、と警戒した。無視して行こうとすると、青年は付いてきた。
「僕、あなたのファンだったんですよ」
ギギは立ち止まって、キョロキョロした。ギギが交番に駆け込もうとしているのを知って、青年は
「僕、そんなに怪しそうですか?」
と情けない顔をした。ギギは初めて青年の顔をまともに見た。
「僕は、もう空中ブランコは、やりません」
ギギはそう言って、歩き去った。
ギギは宣言してしまってから、無闇に悲しくなった。やりたくないのか、やりたいのか。どっちなんだ。ギギは公園のぶらんこに座って泣いていた。
「ごめんなさい、付いて来てしまって。うるさかったら帰ります」
先ほどの青年が立っていた。手にしていた花が心なしかしおれていた。
「僕は、四回宙返りなんか、したくないんだ」
ギギは言った。
「やっぱり、ブランコが似合いますね」
青年はにっこり笑った。
「嬉しいな、ギギさんがブランコに乗っているのを間近で見られて」
青年が言うと、ギギは冷たく言った。
「あんた、変態?」
「……やっぱり邪魔ですか?」
青年は、ギギの隣のブランコに腰し掛け、揺すりだした。しだいに大きく揺すったかと思うと、ぱっと飛び上がってきれいに着地した。
宙返りこそしなかったが、鮮やかに決まっていた。空のブランコがまだ揺れていた。
戻ってくる青年に向かって、ギギは尋ねた。
「あんた、ブランコ乗りか?」
「いえ、違いますけど、三回宙返りをした叔父がいます」
「あ、それって、ピピか?」
青年は、「そうです」と言って微笑んだ。
「ああ、そう……」
ギギは少しびっくりした。
「でも、それなら、僕の三回転を見ても、別に珍しくなんかないんじゃない」
ギギはすぐ、つまらなそうな顔に戻って言った。
「いや、それは違いますよ」
青年は、俄然、熱を帯びた口調になって答えた。
「あなたのは、キレが違いますからね。それに、毎回見るたびに違いますよ」
「そうかな」
「え、ご本人でも、そう思うでしょう? 今日は、うまくいったな、とか、今日はちょっと違ったなとか」
「そんなふうに……考えてるわけじゃないよ」
「飛ぶときに考えてはいないでしょうけど」
ギギは青年ともうちょっと話したくなった。
「ねえ、どこかで食事しない、お腹空いたよ」
「それはいいですね!」
ギギは青年と食事をしながら、話し込んだ。青年は、実によくギギのブランコを観察していて、あのときはああだったとか、くわしく熱をこめて感想を述べるのだった。
ギギは初めは面と向かって受ける賞賛と、いっしょに語れる嬉しさで、酔うような気持ちになった。しかし、青年と別れて一人になると、次第にまた、寂しさに捕らわれるのだった。結局受け取った小さな花束も、ギギを慰めはしなかった。
「結局、僕が欲しいのは、何なんだ? 四回宙返りなのか? 五回宙返りなのか? それとも人々の賞賛か?」
ギギの苦しみは激しく胸を打った。
「何を得ても僕は、満たされないのではないか?」
ギギは手から花束を落として道路に崩れた。車が花束を轢いていった。ギギの身体に誰かがけ躓き、罵られた。
「僕には痛みすらないのだ」
ギギは道路標識に取りすがって立ち上がった。
(了)
これで終わり?!
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- 2006/07/27(木) 20:41:07|
- 未分類
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| トラックバック:2
-
| コメント:12
pierrotさんの「焼き鳥屋で変わり果てた〜」のコメントが
面白かったので、焼き鳥編を作ってみました。
が、あんまり焼き鳥と関係ない内容になってしまいました。
ごめんなさい〜。
- 2006/08/27(日) 11:03:52 |
- URL |
- イーゲル #-
- [ 編集]
あきららさん、こんにちは。トラックバックありがとうございました。
私の話では、キキの子ども世代だったのですが、あきららさんのお話では、キキの親世代がでてきて、どんなだったんだろう、と興味深く読みました。キキ一族のクロニクルを共同制作してるみたいで面白いですね。
2回転「半」というのがgoodでした。群像ドラマになっていてどんどん広がっていきそうだと思いました。
- 2006/08/13(日) 00:51:01 |
- URL |
- リリーブルー #03RJxdeI
- [ 編集]
リリーブルーさん、こんにちは。
リリーさんの「ギギ」を読んでから、ずっと憧れていました
続編の企画に、遅ればせながら、挑戦させていただきました。
TBと私のブログの方で、リリーさんのお話のリンクも貼らせていただいてしまいました。
勝手にすみません;
「ギギ」以外にも、またリリーさんの作品を覗きに、お邪魔させてください☆ よろしくお願いします。
- 2006/08/12(土) 17:06:07 |
- URL |
- あきらら #-
- [ 編集]
団長腹黒、という新聞記事のようなタイトルに笑いました! イーゲルさんの物語の団長さんは、八の字ひげの心優しい団長さんですものね。
いきなり隠し子がいた、というのは、自分でも凄惨なbreak the iceだと思いました。本当は怖い童話、みたいな。
ピピ甥に取りすがる…… イーゲルさんがそんなことをおっしゃるとは!(と喜ぶいけない私)今にも取りすがりそうになったのですが、なんとかぎりぎり回避したようです。
この物語の幕が引けたあとの、彼らの行状までは、私にも責任が持てません、と腐女子的夢を持ってみたり……。
- 2006/07/29(土) 08:30:00 |
- URL |
- リリーブルー #03RJxdeI
- [ 編集]
piaaさんのブログの方で、オリジナリティと言っていただいて、ありがとうございました。あとから皆さんの書いたものをじっくり拝読させていただいて、あ、私のは宿題の意図と違ってるかな? と思いました。勝手に自分の世界に話をもってっちゃってるので。でも、それをオリジナリティと評価してくださって嬉しかったです。
ああ、そうか、私のは妙に生々しいんですね。(半分わざとだけど、半分は無自覚です)
平穏な〜と要約されると、そういう話だったのかあ、と面白い感じがします。他の方に、自分の話を解説して頂くのは、面映く、楽しいです! ありがとうございました!
あ、「ギギを助けた人」! 最初、この青年だと私も思っていました。でも、書いていって、今、この青年が、「実は、あなたを助けたのは僕なんです」と言っても、ギギは、「あ、そう、余計なことをしてくれたものだね」などと言って、やさぐれ(イーゲルさんの言葉を拝借)は変わりそうもないと思いました。
今のギギは、自分を助けた人がいる、という事実に感謝の念がわかない状態であると思います。この青年が助けたのかもしれないし、他の人であるかもしれないです。でも今のところは、ギギに受け止める用意ができていない、認識できていない、誰であろうが興味がない。だから物語上で、誰だかわからない。
誰だかわからないけれど、仕掛け人は神様であることは確実で、もしかしたら執行したのも……。
- 2006/07/29(土) 07:57:22 |
- URL |
- リリーブルー #03RJxdeI
- [ 編集]
そうですか。やはり私の脳は、美青年と美少年限定なのですね。
pierrotさんなのに空中ブランコ乗りに重ねていただいてありがとうございます。じゃなくて、そのように、読んでいただけてありがたいです。
ちなみに私は、風が強い日には、よろけて轢かれないように、道路標識に掴まって信号待ちをします……。
焼き鳥屋! 爆笑してしまいました。いけない、いけない。
私、童話の残酷場面に萌てたりしましたからね(汗)今でも、萌場面は、よく覚えてます。いつか、またそれらも俎上に乗せてみようかと……。
たくましさ……
萌?
ん? ガルデがたくましいと言っていたし、pierrotさんは、たくましさ萌なんだろうか? とつぶやいてみる……。
- 2006/07/29(土) 07:34:11 |
- URL |
- リリーブルー #03RJxdeI
- [ 編集]
ボーイズラブなのではと、緊張させてしまって申し訳ありませんでした。
私は、古典文学にインスパイアされて書く、というのを、よくここのブログ(HP)でやっています。どうやったら、原作の、自分が面白いと思った部分を取り出しそこだけ拡大しお気に入りの小説に書き換えられるか、と考えます。そのために、原作がとんでもメタモルフォーゼされます。
ご指摘を受けるまで気づかなかったのですが、その癖でしょうか……。 『明暗』の続き、みたいに、文体をそろえて、続編を書くという姿勢は、ぜんぜん考えてなかったです……。
別役は、シニカルな感じ、そこからくる希望のなさみたいなのがどうも苦手なのです。
「あしたのジョー」は、うけました(笑)。なんかそんな雰囲気ですよね。妙な暗さといい、青年の葛藤みたいなのが。立ち上がったから希望がある……そのように言っていただけて嬉しいです。私は、書いたとき、これがあんまり希望だと思ってなかったので。
ドッペルさんの、ほかの別役作品のハッピーエンド化が読んでみたいです!
- 2006/07/29(土) 07:01:02 |
- URL |
- リリーブルー #03RJxdeI
- [ 編集]
現実感のあるキキの続編として読ませて頂きました。
公にされていなかったキキの隠し子ギギという設定が凄いです。サーカスの団長、腹黒ですねー。
ピピの甥にあたる青年もいい味出していて、ギギのやさぐれた心を癒してくれるのは彼が持つ才能を認めてくれる存在なのでしょうね。
>道路標識に取りすがって立ち上がった。
どうせならピピ甥にすがっちゃえよ!
と腐女子的発想を試みてみたり…。
面白かったですよ。
- 2006/07/28(金) 15:31:32 |
- URL |
- イーゲル #-
- [ 編集]
コメント・TBありがとうございました。
こちらからも私の書いたものと娘の書いたもののふたつをTBさせていただきます。
リリーブルーさんの続編は原作のファンタジーの部分を削り落として、平穏な生活を渇望しながらも名声欲を捨てきれない主人公をリアルに描いた好編ですね。
ちょっと気になったのは「ギギを助けた人」はだれだったのでしょう?この青年でしょうか?
- 2006/07/27(木) 23:11:25 |
- URL |
- piaa #-
- [ 編集]
初めてリリー様のBLではない話を読みました!
けど、『美』がついてなくとも、麗しい青年同士に見えますが?(笑)
やる気があるのかないのか分らないギギの姿が、何だか自分と重なるなーと思いました。
そして、ドッペル様のコメントも拝見させて頂いて、
「あしたのジョー」に、なるほどなどと納得してしまいました。
きっとpierrotも掴まる物がありゃー、なりふり構わず掴まりますw違和感なく読んでしまっていました(^^ゞ
原作も読ませていただきましたが、よく続きがかけるなーと感心してます。pierrot的続きだと、鳥になった後の話になりますね。焼き鳥屋で変わり果てた……。すみません。冗談です。
(即興だとこんなもんしか浮かばないですよ(>_<)
昔、原稿用紙5枚の童話作りに挑戦した事があるのですが、難しいです。残酷でも傍から見たら最後には幸せを得たのだからいいでしょうみたいな。でも、だから感動があるのでしょうか。夢が残る、と。
リリー様のは生きる事のたくましさがありますw空中ぶらんこでなくとも他で生きてゆけそうな……。←他って何だよ。
萌えましたw←ヤバイ人。
- 2006/07/27(木) 22:45:32 |
- URL |
- pierrot #-
- [ 編集]
これで終わり?って思いました。
別役発想ってのがあるんですね。
寓話が急に現実的なお話になったようで、そのへんが私にとっては不思議な感じがしました。
このへんが>別役苦手というところから来ているのでしょうか?
リリーブルーさんの展開にドキドキしながら読ませていただきました。
やはり最後の場面が印象的で(なにか「あしたのジョー」を思い出しました)ギギをとことん落としても一応は「立ち上がった」ので希望が少しはあるのかなとも感じられる終わり方です。
コメントTBありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
- 2006/07/27(木) 21:58:52 |
- URL |
- ドッペル #-
- [ 編集]
初の企画に参加!別役実著の「空中ブランコ乗りのキキ」という短編の、続編を創作するという企画です。「美青年」のリリーブルーさんの作品を読んで、「私も参加したい!」と思い、無謀にも^^;挑戦してみました。リ
- 2006/08/12(土) 16:57:20 |
- あきらら☆お話クローバー
これは我が家の長女RINRINの、国語の教科書に載っていた別役実の童話。短いが印象深い作品である。こちらで全文が読める。 実はRINRIN、学校の課題として、「この作品の続編を書け」という難問を持ってきた。そこで私もい
- 2006/07/27(木) 22:55:17 |
- P&M Blog