「キースよ、私にだけ打ち明けるがいい、お前の苦しみを」
キースは黙ったまま、肩を捻って、いらだたしげにグレイブの腕を払いのけた。何も聞こえなかったかのような顔をして、視線を海へと落としているキースを見ては、己の言葉も、周囲の音も、キースには届かないのだ、と自分を納得させるしかなかった。
それでも、キースの長くしなやかな指が、掴まるでもなく欄干にかすかに触れているのを見ると、グレイブは、己が手にキースの指先が触れているかのように感じ、再び心がざわざわとするのを感じた。グレイブは千千に乱れる心に半ばあらがい、半ば流されながら、それでも真摯な気持ちから言った。
「掴まるのなら、我が手に掴まるがいい。私の手は、いつでもお前の側にあるのだから」
グレイブが重ねた左手を、キースの右手は、はっしと払いのけた。強烈な痛みに、優雅な王子の手が、同時に鋼のように強靭であることを、グレイブは思い知らされるのであった。十分に誠実さを保っているつもりだったのに、妙な心のざわめきを見透かされたのかと、自分にも相手にも腹を立てながら、赤くなった自分の左手をさすって、グレイブは恨み言のように問うた。
「なぜ、人が差し伸べる手を振り払うのだ?」
何も答えぬキースの横顔を、改めて見た時、グレイブは、胸のハートにキースの手が優しく差し込まれ、ぐっと掴まれたかのような感触を感じた。王族らしい整った高い鼻梁のプロフィール、暗く揺れるキースの瞳。胸の内の、甘い痛みのような感触に、グレイブは、再び、あらがいようのない眩暈のような陶酔と胸の高鳴りを感じたのだ。
- 2008/02/11(月) 20:24:06|
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